殺るか、殺られるか 5 (指詰めろ。) | ヒトコワ新聞

殺るか、殺られるか 5 (指詰めろ。)

殺るか、殺られるか 4 の続きです。

そして、2日後、ついに犯人の生徒二人と親と学校の三者の話し合いが
もたれた。2日後ってのは遅すぎると思うが、まぁ、あんな親だから
そのまま逃げられるよりはマシか、と自分を慰めてみる。


校長室に入ると左側には犯人生徒二人と母親と思われる
女性二人が座っていた。
右側には担任の先生や学年主任が、奥には校長が座っている。


まずはお互い軽く挨拶を交わし、着席。
学校側の説明によれば、前の電話の件は悪気がなく
早く修理したほうが、私にとっていいのではないか、
という配慮のつもりだったらしい。


学年主任から「えむさんのお気持ちを伝えてください。」
と発言を促された。私はかなり頭にキテいたので、一言


「これから私が言うことは教育上良くないことも含まれて
 います。それでもよろしいでしょうか、先生方、校長、
 そちらのお母さん方。」


周りは首を少し縦にふり、発言を認めた。


犯人の生徒二人にはしっかりお灸をすえるつもり
だったのでこういうことを話した。


私がレーサーという夢をあきらめ、手に入れた車であること。


私が仕事で倒れ、病になった時にでも支えてくれた車だったこと。


この車を買った代金の一部は、私が労働災害にあい、
指を切断してしまった時に支払われた補償金の一部を使っている。
自分の体の一部のような車であること。



私の妻もそんな、この車が大好きで今回の事件で相当ショックを
受けたこと。




ひと時、静かな空気が流れる。


私は抑えた声で、生徒二人にこう言った。


「正直言って、もうこの車に対する愛着はなくなってしまった。
 これだけ好きだった車なのに、乗るたびに思い出すんだよ。
 車中を汚され、壊され・・・。」


「人間で言ったら身ぐるみはがされて、ツバを体中かけられ、
 ボコボコに殴られたようなショックだ。
 これでなんとなく俺の言ってる意味がわかるか?」


「もう、乗りたくないんだよ。理屈じゃないんだよ。
 あんなに好きだったのに、もう乗りたくないんだよ。」



・・・生徒は押し黙っている。



「いいか、この車の金額はお前らがバイトしても簡単に手に入る
 金額じゃない。だが、壊すのは一瞬だ。
 お前らはまったくそんなことを考えてなかっただろう。」


「どれくらいの金額かっていったら、さっき言った指を切断した
 例で言ったら2本分だ・・・。
 もう一度言う。壊すのは一瞬だ。だが、手に入れるためには
 どんなに働いても一瞬じゃ無理だ。
 じゃあ、どうするか?」



 「お前ら一本ずつ指、落とすか?これでちょうど車一台分だよ。」



あたりが張り詰める・・・。


「はっきり言う。俺は指を落としたお金でこの車を手に入れている
 部分がある。ヤクザとは違う。それくらい、俺にとってはすべてを
 かけた車なんだ。」


「もう一度聞く。これは脅迫ではない。説教でもない。質問だ。」



「指、落とすか?」



おおよそ1分くらいだろうか。
みな、たじろぎもせず息を殺している。
私は相手の目をじっと見ていた。


「できません・・・。」


生徒の一人が言った。
もう一人に尋ねる。


「お前は?」


うつむきながら生徒は言った。


「できません・・・。」



・・・私だって、その場で


「指つめます。」


って言われても止めるつもりだった。
しかし、


「できません」


というだけ、コイツラは素直だ。


「そうだろう。おまえらがやるっていってもお母さんが
 止めるだろうな。」


「これからはお金の面の話だから、お前らはもういい。
 お前ら、将来バイトしたら修理代くらいは親に渡せよ。
 自分のケツくらい自分で拭けるよなぁ?それが責任を取るってこと
 じゃないの?」


納得したかはどうかわからないが、これで、生徒側の説教は終了した。


あとは


「親」だ。


正直、両親そろってくるものと思っていたのでがっかりした。
家庭のお金の出所はどこからか、というのを私は知っていたからだ。
当然、物損事件なのでお金は絡んでくる。
そこのところを、この「母親達」は理解しているだろうか?



「さて、お母さん方・・・」


私の会話の矛先は母親に向かった。


殺るか、殺られるか 6に続く。