殺るか、殺られるか 9 (最後の妥協点) | ヒトコワ新聞

殺るか、殺られるか 9 (最後の妥協点)

殺るか、殺られるか 8の続きです。

・・・5分ほど、時は経過していた。
私は、私の価値観で最大の妥協点を見出す。


「車の価値が下がる分は、先ほども申し上げましたとおり、
 現在の私の車を業者に売るとき、別の店では何万円価値が下がり、
 また、他の店では価値が下がらないかもしれません。
 今までのお話を総合して考えてみても、まぁ、価値が下がらなければ
 幸いですが、価値がそれ以上下がる、となった時に
 今の私の心境では、納得できるものではありません。」


「あなた方は、ただ車をなおせばいいだろう、と考えているのでしょうが
 はっきり言って、私はこの車を手放す気持ちのところまで来ています。
 正直、お金の問題としては当の昔に、通り過ぎています。
 そちらからすれば、残念な話でしょうが、当たった相手が悪かった、
 とでも思ってください。私はこういう人間です。」


「あなた達の要求はわかりました。
 そして、私の要求は以前と変わりません。
 私の要求がそのまま通ることは、恐らくないでしょう。
 
 そして・・・
 あなた方の要求をそのまま受け入れる気もありません。」


「理由があります。」


「もう一度言います。
 この車が、私のすべてをかけた車だからです。
 私の今までの人生をかけた車です。
 私だけでなく、妻も大事にしていた車です。」


「しかし、現実問題として、話を進めなければいけません。
 お互いの妥協点を見出さなくてはなりません。」

「私も要求を言いました。あなた方も言いました。
 私の要求金額は新車買い替え金額280万円でした。
 しかし、私の妥協点は、
 ボンネット修理費、車両査定価格落ち金額、そして
 将来、より私が損害をこうむる可能性を考えた金額と
 して、そちらの支払い希望金額のプラス3万円・・・。」






「15万です。」







加害者側は、私の顔ではなく、見積もりをずっと見ている。


「280万円の要求を15万というところまで落としました。
 私は妥協点を提示しました。
 もし、将来、これ以上車の価値が下がったとしても、
 この金額をお支払いしていただけるのであれば
 私は一切の追加請求はいたしません。あとはあなた達が
 どうするか、です。」


続けて学校側が「今だっ」といわんばかりに
たたみかける。


「えむさんがこれだけ提示しているので、あとは
 ご両親がどうするかなんですが、どうですか?」


母親の一人が隣の父親に


「今日のところは持ち帰って話したほうが・・・。」


と不満気な顔をしている。


父親の一人は


「いや、これは実際損害を与えたほうは私達だから
 払うべきじゃないのか・・・?どうですか?○○さん」


隣の父親は


「はぁ・・・。まぁ、しょうがないですよね・・・。」


父親同士、協議している。


「えむさん。」


父親が切り出した。


「先ほどのえむさんが言っていた金額15万でよろしいんですね。
 これで許していただけるんですね・・・?」





「はい。」





私は答える。


「これで・・・。これで、えむさんに許していただけるなら
 そのとおりで結構です・・・。これでいいですよね○○さん。」


父親が、隣の父親に確認する。


「えぇ・・・。それで許していただけるなら・・・。
 この度はすいませんでした。」


学年主任がまとめる。


「えぇ~、金銭面についてはこれで両者、よろしいでしょうか。」


私も、加害者も、小さくうなずく。


「では、これで解決ということで・・・。
 お互い、何か一言ございましたら・・・。」


まずは加害者側の父親から・・・。


「この度は申し訳ありませんでした。
 本当にこれで許していただけるのであれば助かります。」


もう一人の父親


「本当にすいませんでした。そして、奥さんにも迷惑を
 おかけして申し訳ありませんでした。
 ラジオを聴いていて、大変申し訳ないと、奥さんにも
 お伝えください。すいませんでした。」


そして私。


「最後に一言だけ、言わせてください。
 あなた達のお子さんは、確かにひどいことをした。
 しかし、私に謝り、自分の責任を果たすということを
 約束してくれました。
 そういう意味で彼らは、きちんとケジメをつけたと
 思います。」


「しかしながら、罪は罪、罰は罰です。
 私が約束させたことを、ぜひ、お父さん、お母さん、
 応援して、見守ってあげてください。
 以上です。」


加害者側、両親4名が頭を下げた。


学年主任がシメに入る。


「えぇ~、この件はこれで終わりたいと思います。
 両者これでよろしいですね。
 では、終わります。お疲れ様でした。」


終わった・・・。


これで、ようやく終わった・・・。


・・・疲れた。


とにかく、疲れた・・・。






「で、お支払いの期日はいつにしましょうか?」
学年主任が加害者側に声をかける。




「あの~・・・。」










「2ヶ月後まで待ってもらえないでしょうか・・・。」






一人の父親がそう言った。


殺るか、殺られるか 10 へ続く。